大判例

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最高裁判所第一小法廷 平成元年(行ツ)120号 判決

名古屋市守山区大森八竜二三六七-三九一

上告人

古川裕

右訴訟代理人弁護士

吉武賢次

神谷巖

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被上告人

特許庁長官 吉田文毅

右当事者間の東京高等裁判所昭和六三年(行ケ)第五六号審決取消請求事件について、同裁判所が平成元年七月一三日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人吉武賢次、同神谷巖の上告理由及び上告人の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大堀誠一 裁判官 角田禮次郎 裁判官 大内恒夫 裁判官 四ツ谷巖 裁判官 橋元四郎平)

(平成元年(行ツ)第一二〇号 上告人 古川裕)

上告代理人吉武賢次、同神谷巖の上告理由

上告理由第一点 原判決は法令の解釈を誤った違法があり取り消されるべきである。

1 特許庁における手続の経緯

上告人は、昭和五五年五月一〇日、名称を「ハンドル軸回転に連動する、ヘッドライト焦点及びサイドミラー誘導装置」とする発明(後に「ハンドル軸回転に連動する、ヘッドライト焦点又はサイドミラー誘導装置」と補正。以下「本願発明」という。)について、昭和五四年六月一日出願の昭和五四年特許願第六九二七三号の追加の特許出願(昭和五五年特許願第六二〇八八号)をしたが、昭和五七年一一月一二日拒絶査定を受けたので、昭和五八年四月二一日審判を請求し、昭和五八年審判第八四一二号事件として審理された結果、昭和六三年二月二五日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされ、その謄本は同年三月二六日原告に送達された。

2 審決の適用した法令

本件審決は、本願明細書及び図面の記載は不備であり、特許法第三六条第三項に規定する要件を満たしていないとの理由で、本件審判請求を却下した。

ところで、本願は、前記のとおり追加の特許出願であるところ、追加の特許出願制度は昭和六〇年法律第四一号による特許法の一部改正により廃止された。

而して、同改正法の附則第二条の経過措置によれば、同改正法の施行前にした追加の特許出願であってこの法律の施行の際現に特許庁に係属しているものについては同改正法による改正前の特許法の規定は、同改正法の施行後もなおその効力を有することとされた。

右改正法が施行されたのは昭和六〇年一一月一日であり、その際、本願は特許庁に係属していたから、右附則第二条の規定により本願については、改正前の特許法の規定が適用される。

而して、前記改正法により特許法第三六条も改正されたが、改正前の特許法第三六条第三項は追加の特許出願をする際の特別の要件について規定し、第四項は記載不備について規定していた。

そうすると、本願については改正前の特許法第三六条がなおその効力を有することとされる結果記載不備については改正後の特許法第三六条第三項ではなく、改正前の特許法第三六条第四項が適用されるべきである。

したがって、本件審決が本願明細書及び図面の記載不備を理由に特許法第三六条第三項を適用して本件審判請求を却下したのは法令の適用を誤った違法があると言わなければならない。

3 原判決の誤り

原判決は、「本願明細書及び願書添付図面の記載は特許法第三六条第三項に規定する要件を満たしていないとした審決の認定判断は正当であ」ると判断し、本件審決と同じく法令の適用解釈を誤ったものと言うべきである。

上告理由第二点 原判決は、審決の判断していない事項について判断した点において違法であり取り消されるべきである。

原判決は、拒絶理由〈1〉について、「明細書及び別紙図面第一図には、遊星ギイア3及び円筒パイプ4の具体的構成、すなわち、それらを何によってどのように支持するのかの点は全く記載されておらず、結局明細書及び別紙図面の前記記載は、本願発明の遊星ギイア3及び円筒パイプ4について、当業者が何ら設計的努力をすることなく容易にその実施をすることができる程度に構成を明らかにしているものといえない。」と判示する(原判決第一二丁裏八行乃至第一三丁表三行)。

2 然るに、本件審決は、円筒パイプ4の具体的構成すなわち円筒パイプ4を何によってどのように支持するかについて記載の不備があるとは判断しておらず、この点において、原判決は本件審決の判断していない事項について判断したものと言わざるを得ない。そもそも、拒絶理由〈1〉は、本件審判において、昭和六二年一一月一二日付で通知された拒絶理由1についてなされた判断である。

而して、右拒絶理由1の内容は、「・・・(前略)図面第一図をみた限りでは遊星ギヤーはどのようにささえられているのか不明であり、そのようなものによっては所期の作用効果を奏し得ない。」(審決第三頁五行乃至一二行)というものであり、これに対応して、本件審決が説示した拒絶理由〈1〉は、「明細書と図面の記載をみた限りでは、ビニオンギイア2、遊星ギイア3を円筒パイプ4の中に配置した場合に、どのように支持するかという構成が当業者が容易に実施し得る程度に記載されてなく」というものであって、円筒パイプ4がどのように支持されているか不明であるなどとは一言も言っていない。

3 したがって、上告人も原審においては円筒パイプ4がどのように支持されているかについて意見を述べなかったのであり、原判決の判断は上告人にとっては全くの不意打であると言わなければならない。原判決の判断は、特許法第五〇条の規定の精神に反し実質的に違法であると言わなければならない。

上告理由第三点 原判決は法令の解釈を誤った違法があり取り消されるべきである。

1 改正前の特許法第三六条第四項(現行特許法第三六条第三項と同じ)の規定は、周知慣用の技術までも明細書に記載することを要求するものではない。

2 原判決は、遊星ギイア3を支持する軸があるとしても、その軸自体が何によってどのように支持されるべきかは依然として不明であるといわざるを得ないと判示する(原判決第一三丁表四行乃至三八行)。しがし、一般にギイアを支持する軸を何によってどのように支持するかということは一般大衆が日常的に目にすることが出来る程度の周知慣用の技術であるから、本願の遊星ギイア3を支持する軸を何によってどのように支持するべきかは周知慣用の技術を使用することによって容易に実施することができるものである。

例えば、原審において被上告人が提出した乙第一号証の実用新案公報についてみると、添付図面第一図乃至第四図に記載されたハンドル1の軸は何によってどのように支持されているかは何ら図示されていないし説明もない。これは、周知慣用の技術を使用することによってきわめて容易に実施することができると考えられているからである。

同じく乙第二号証の実用新案公報についてみると、第一図に記載されたハンドル軸並びに歯車2及びプーリー4の軸は何によってどのように支持されているかは何ら図示されていないし説明もないが、周知慣用の技術を使用することによってきわめて容易に実施することができると考えられていることは明らかである。

乙第三号証の公開実用新案公報のハンドル軸3についても同様である。

3 このように、遊星ギイア3をどのように支持するかということは周知慣用技術を使用することによって容易に実施をすることができるから、その記載がなくとも改正前の特許法第三六条第四項(現行特許法第三六条第三項に同じ)の規定に違反することとはならない。

然るに、原判決は前記特許法の解釈を誤り、周知慣用技術についてもその記載を要すると解釈した点において違法であり取り消しを免れない。

上告理由第四点 原判決は、重大な事実誤認の違法があり取り消されるべきである。

1 原判決は、拒絶理由〈2〉について、「別紙図面第二図には、ワイヤー9が三本でありそれらが平行の状態のまま、斜線を描いてある部材とヘッドライト10(又はバックミラー11)とを連結していることが極めて模式的に示されているのみであって、そこからは採るべき具体的手段について何ら示唆を得ることができ」ないと判断している。

2 しかし、三本のワイヤーで自動車のバックミラーを上下左右に動かす技術は実際に自動車に使用されてきた慣用技術であり、原判決は重大な事実誤認をしたものである。

上告人は、右の技術が慣用技術であることを立証するため、本願の出願前に頒布された刊行物である実開昭四九年-八九八三五号公開実用新案公報(甲第三号証)を提出する。

右公報に記載された三本の索状体を使用する技術は、実際に我国において普通乗用車のバックミラーを運転席から遠隔操作によって上下左右に動かすための技術として慣用された技術である。

そうすると、本願の第一図の記載に右慣用技術を応用すれば当業者は容易に実施をすることができたものと言わなければならない。

したがって、原判決は重大な事実誤認の違法があると言わなければならない。

以上

(平成元年(行ツ)第一二〇号 上告人 古川裕)

上告人の上告理由

昭和六三年(行ケ)第五六号審決取消請求事件に対する東京高等裁判所第六民事部の平成元年七月一三日付判決言渡の正本を見れば発明の主体が何であるかは全面的に認めている 即ち 第九頁に、第三 請求の原因に対する認否及び被告の主張で、一請求の原因一ないし三の事実は認める。とし二同四は争う。とある。高裁では最終段階に至って急に論点が変った。しかし、その文面を熟読すれば、その内容は再びもとへ戻り頁一二、一三、一四には発明そのものはここでも最もはっきりと認めざるを得ない表現で記されている。その中で判決の棄却を支える文面の五箇所にわたって、唯 記載が不明瞭であるとして第三六条第三項に規定する要件を満していないと辛じて論点をかわすが、この点は原告は当初から専門の技術と知識を有する当業者であれば何人どいえども容易に理解できる技術上の表現であり、事実 昭和六二年一二月にトヨタ自動車特許課で相談した際も直ちに理解した点からも明かである。先の審査官、藤井俊明氏は現状での審判終了はあと二年だと言っていました。普通なら二年で通知を受けるはずの審判が、五年もかゝって来たことについての不審感からで、トヨタでアドバイスを与えた方は黒田哲正氏であり、この発明に非常な関心を示された。特に強調したいことは、一三頁3拒絶理由〈2〉について、部材とある一三頁一六行、一七行、一九行、一四頁八行、一二行、一五頁八行の疑問に対しては昭和四九年八月三日実開昭四九年八九八三五号、実用新案の部に既にこの枝術は精密に発表されている公知の事実であることを最高裁判所の法廷で明示したい。

この事件は一個人としての発明者に対し、故意に迫害する意図のもとに徒に言を左右し揚げ足をとる如き文意ばかり羅列されているが。その中でも特に許し難い点は原告として何等記述していない「作動ノブ器具5を単にプレート8といっているにすぎない」と記述した頁5、二〇行より頁6、一行は、偽りも甚しい記事であり正義と人権とを侵害したものとして憤然として訴えたい。

特許庁審査官たる者が。本田技研と癒着して動いていること 弁護士もこれと歩調を合せて、原告の主張を巧みにかわしており、製作した模型の写真をも提出していない点等々、法の根本精神は正義性であり、基本的人権尊重を最も重視するはずの高裁に於ける不法な棄却に反対する。更に一点挙げておきたき問題は、昭和五八年四月二一日付の甲第二号の四の2の特許の請求範囲には明記されていた「ハンドル軸回転を利用して作動することを」の一文が脱落したまゝで今回の判決文は書かかれている。この一文は昭和六三年八月二二日付にて弁護士に訂正方を依頼しておいた問題点である。

更に附記しておくことは、本発明は、旧法に基いて行われたものであるので、被告側のくりかえし述ている第三六条三項とは旧法で、追加の特許における明細書の関係をうたっている条文で、原告は旧法しか知らなかったので非常に困惑した。原告にも法の改正を知らなかったという落度はあるにしても、何故その点の配慮して項けなかったのか。

弁護士も専門的知識の持主であるはずであるのに原告の困惑に対して何等教示してくれなかった。

被告である審判官 と企業体の癒着、被告側と絶えず連繋を保ち、原告の切なる要望に応じようとしないでむしろ被告側を防衛するかの如き態度を強く感じさせる弁護士、発明の本体からは離れたノブ器具の外観に対し無知な論義を重ねて棄却(完全に公知の事実)に追いこんだ高裁、三本のワイヤーを使って、ノブを動かすことは例えば、公開実用新案公報、実開昭四九-八九八三五号によっても公知の事実であり、これは三本のワイヤーを作用させることを特徴とするバックミラーの遠隔操作装置であります。この考案では、器具を使用してノブを作動させることをしてなかった。しかるに、私の発明はこのノブを溝に組み込ませ、ハンドルの遊び角度を除いて作動させる仕組みを発明した点にあります。

昭和五五年七月一日の出願審査請求書には発明の数2と記載されているのに、特許庁では審査の初まる以前、出願公開の時点で勝手に発明の数1と記載されている点も、不審感の一つであります。

上告訴状を提出するに当って、実は七月二一日に守山警察署を訪れ「本田技研が研究し、バックミラー、ヘッドライトの移動が良き成果を生じさせた結果、本田ではヘッドライトを装備して昭和六三年五月頃より製産体制に入っていて、三重県のスズカ工場で従来六〇万台体制なのを一二〇万台体制で用意していた。一と私は言った。警察ではこのことを認めた上で、弁護士を変えろと指示された。これは、審判の遅れる三年間に新工場を増設したことを意味する。更に審査官及び審判官の拒絶文の対応が、とれていないこともこのことに関係する。

多くの知識人から弁護士を変更せよと注意されたが果し得ずして事ここに至った苦衷を汲んで頂き、原告自から書いたこの上告理由書をも採択して最高裁のご判断を願います。

以上

(添付書類省略)

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